中東ビジネス最新情報 ・2020年8月6日

パンデミック下におけるハッジ

イスラム教徒5つの義務、五行のうちの一つ、サウジアラビア・メッカへの大巡礼「ハッジ」が8月2日に終了しました。例年世界各国から200万人以上が巡礼に訪れる一大イベントも、新型コロナウイルス感染症の拡大が止まらない状況下で例年と異なる様相となりました。

ハッジは通常のメッカへの巡礼(ウムラ)とは異なり、年に一度、イスラム暦の巡礼月のうち決まった期間にメッカとその周辺地域で一連の宗教儀礼を行うもので、イスラム教徒にとって、健康で経済的に可能であれば少なくとも人生のうちに1回は行うべきものとされています。渡航費や滞在費等を貯め、数年間に渡って計画を立ててようやく訪れる信者も多くいます。しかしメッカのあるサウジアラビアではアラブ諸国の中でも新型コロナウイルスの感染拡大が続いており、今年は国外からの巡礼は禁止、国内居住者でも持病のない65歳未満で事前に検査を受けた1,000人程度に限定する、巡礼中はソーシャルディスタンスを維持し、密集を避けるなど、1932年の建国以来初の特別対応の巡礼期となりました。

サウジアラビアにおいては、上記の巡礼客の限定的な受け入れによって、経済的にも大きな打撃を受けています。Bloomberg(参照元:Broomberg)によるとハッジを含む宗教行事に関わる観光業は2018年にGDPの2.7%を占める200億USドル以上の売り上げがあったものの、今年は4.1%減少すると予想されています。同国においては、原油依存型経済からの脱却を目指し、産業多角化を推進する一環として、2019年9月には日本を含む49か国の観光ビザの発給を開始し、2020年6月には40憶米ドルの観光資源開発ファンドを政府が立ち上げることを発表する(参照元:Gulf Business)など、観光業の成長を図っていた矢先、年間で最も国外観光客が訪れる期間の渡航禁止措置を取ることを余儀なくされました。

サウジアラビア当局は、徹底した対策により巡礼者の中から今のところ感染者は出ておらず、経済的なダメージは大きいものの感染症対策としては効果があったと発表しています。感染が落ち着いた後も観光業への影響が続くものと思われますが、巡礼者のオンライン抽選やスムーズな巡礼のための「スマートID」活用等、厳しい状況の中でも新しい巡礼の仕方を模索する前向きな取り組みもありました。様々な地域から大勢の巡礼者が集まることで過去にも感染症の蔓延が課題とされてきたこともあり、今回の経験が今後どのように活かされるのか注目されます。

ソーシャルディスタンスを保ちながら巡礼する巡礼者(出展:CGCSaudi)



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