中東ビジネス最新情報 ・2017年11月17日

ルーブル・アブダビ開館から読み解くアブダビの国家戦略

仏ルーブル美術館の世界で初めての海外分館であるルーブル・アブダビがアブダビのサディヤート島にオープンし、今月11日から一般公開が始まりました。
このオープニングイベントにはアブダビの皇太子はもちろんのこと、フランスのマクロン大統領も駆けつけました。

http://gulfnews.com/news/uae/society/world-celebrates-louvre-abu-dhabi-opening-1.2120950




画像:ルーブルアブダビの外観(出典:ルーブル美術館ウェブサイト)






こうしたニュースを日本で目にすると、「また産油国が金にものを言わせて派手なことをやっている」というように捉えられがちだと思います。
実際にそういった側面も無くはないのでしょうが、少し違う見方をするとアブダビという国のしたたかで必死な国家戦略が見えてくるような気がします。

そもそもこのルーブル・アブダビ建設の政府間合意がなされたのは2007年のことで、当初は2012年にオープンする予定でした。(途中にリーマンショックに伴う金融危機及び原油価格の下落といった影響があり、プロジェクトの完遂が遅れてしまったのです。)
ではなぜこのタイミングで両国はこの大きな合意を締結したのでしょうか。

これにはアブダビの石油権益が大きく関わっていると考えられます。
アブダビは現在世界8位の原油生産量を誇りますが、隣国で原油生産量世界1位のサウジアラビアとは異なり、外資企業が油田権益の一部を保有できるようにしています。
アブダビには大きく、ADCOの運営する陸上鉱区と、ADMA-OPCOの運営する海上鉱区の2つが存在し、これら2つの権益の60%はアブダビ国営石油会社(ADNOC)が60%を保有し、残りの40%を外資系石油企業が分け合うような形態をとっています。
ここでポイントとなるのが、この権益というのは期間の定められた有限なものであるということで、陸上鉱区は2015年に、海上鉱区は2018年にそれぞれ更新を迎えることになります。
ざっくりと言ってしまえば、2015年と2018年にアブダビ政府がまた外資パートナーを選びなおすという訳です。

前述の通り、アブダビは世界8位の原油生産国ですので、この権益は外資石油メジャーにとっては大変重要なもので、特に陸上鉱区の9.5%(更新前数値)、海上鉱区の13.33%を保有する仏トタール社(及びフランス政府)にとっては、何としてもこの権益を維持・拡大するという気構えがあるのではないかと考えられます。

ここでアブダビ側の視点に立ってみましょう。
アブダビは今でこそ裕福な産油国となっていますが、今日のような急速な発展がはじまったのは、それまで1バレル10-20ドル程度だった原油価格が一気に100ドル近くまで急激に上昇を始めた2000年代になってからのことでした。
この頃からアブダビは莫大な財政黒字をもとにインフラ投資を始め、一気に都市・産業開発に乗り出していきました。
ここでアブダビが大変幸運だったのは、こうした原油価格の上昇と、石油権益の更新タイミングがほぼ重なったことです。
すなわち、原油の価値が上がっている中で、権益の新たな外資パートナーを選べるという状況になりますので、いわゆる“ビューティーコンテスト”のように、どの国が一番アブダビに貢献をしてくれるかということを競わせられるような状況が生じたわけです。

ルーブル・アブダビ建設の合意がなされたのは、フランス側とアブダビ側の思惑が一致したであろうまさにこのタイミングのことだったのです。
また、最終的にこのタイミングにオープンしたというのは恐らく、2018年を見据えてのことだったのでしょう。フランスはこれ以外にもソルボンヌ大学やINSEADのアブダビ校開設など、様々な手を繰り出しました。

さてここで重要なのは、こうして財政的に余裕が生じ、また海外からの協力を取り付けやすいボーナス期間に入ったアブダビがどういった国家戦略をとっているかということです。
それが端的にまとまっているのは、アブダビ政府が2008年にとりまとめた「Abu Dhabi Economic Vision 2030」で、ここでアブダビは脱石油路線を強く打ち出しました。
脱石油のためには産業の育成・誘致及び海外からの訪問者の増加、そして何より人材育成が不可欠であり、アブダビは外資企業の力を借りながらこれを達成しようとしています。

今回のルーブルは大変大きなプロジェクトですが、上記の方針に沿ったプロジェクトであれば、アブダビ側はたとえ小さな案件であっても積極的に取り組んでくれる姿勢を持っています。

私共ksn Research & Consultingはドバイだけでなくアブダビにも政府系企業を中心にネットワークを持っておりますので、何かご質問やご相談がございましたらお気軽にお問い合わせください。


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